日経新聞朝刊、夕刊の記事から仕事、組織をキーワードに選んでご紹介します。インデントは記事からの引用です。お気づきの点がございましたら、ご指摘ください。
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鯨の腹に飲み込まれろ。Yahoo!で夢を実現した池田氏
「[ヒット案内人] ヤフー池田洋人氏――日本一の天気情報サイト、一人で刷新」(2004/07/22, 日経産業新聞)
気象予報士の資格を取得し、インターネットサービス会社や建築現場などに気象情報の活用を提案して歩いた。だが、「ヤフーのサイトを見ればわかるからいいよ」などという客先が多く、なかなか自分のアイデアを採用してもらえなかった。Yahoo!天気情報はリニューアルによって500万PVから1千万PVに倍増した。サイトのリニューアルとしては大成功だ。
当時所属していた情報提供会社は、いわば気象情報の素材をヤフーなどに供給するだけの役割。「気象情報の素材を加工して一般の人に見せる料理人になりたい」と思い、昨年六月にヤフーに転職した。
池田氏がYahoo!に転職した動機がおもしろい。自分のアイデアが顧客に通らない理由が「Yahoo!があるからいらない」であるという。自分のアイデアに自信を持っていた池田氏は、それならYahoo!で実現させてしまおうと考えた。そして転職して1年で有言実行、ページビュー2倍という実績を出す。
まるでくだらない連想で申し訳ないが、鯨を捕るために鯨に飲み込まれたと「侍ジャイアンツ」の逸話を思い出した。そういう仕事の仕方もあるのだなと。現在の環境では乗り越えられない壁があったら、思い切ってそこに飛び込み、中から壁を突き破ってしまうというのも一つの方法だ。
「お約束の裸」でクリエイターが育つ土壌
「[ベストセラーの裏側] 奈須きのこ「空の境界」――ゲーム世代を取り込む」(2004/07/22, 日本経済新聞 夕刊)
奈須氏にラブコールを送り、ノベルス化を実現したのは、ゲーム世代を取り込んだノベルス判型の新文芸雑誌「ファウスト」の太田克史編集長だ。「お約束の裸さえ入れておけばなんでもありというゲームの世界は、(才能ある監督を多数輩出した)かつての日活ロマンポルノをほうふつとさせる。ゲームライターの才能を小説の世界に取り込まない手はない」

講談社「ファウスト」の太田克史編集長の言葉「お約束の裸さえ入れておけばなんでもあり」「日活ロマンポルノをほうふつとさせる」がこの業界の活気をするどく表している。
優れたクリエイターを探し出すためには、商売にするための最小限のルールだけがあって、あとは自由というタガのはずれた風土が似合っている。となると「お約束の裸さえ入れておけば」最低限の商売になるゲーム業界は恵まれた土壌だ。しかもゲームにはグラフィックスも、音楽も、あらゆる芸術と技術が入り込む余地がある。「お約束の裸」を商売の糧にして、さまざまなジャンルのクリエーターを探しだし、養成するだけの養分がこの業界にはある。
企業卒業生を輩出する人材養成所というあり方
「[新会社論] 第5部トンネル抜けたら(4)職場が「るつぼ」になる」(2004/07/22, 日本経済新聞 朝刊)
優秀な人材は大手ゼネコンにスカウトされ会社を去っていく。「数年で売れる人材になって巣立て」。佐藤真吾社長は社員にハッパをかける。会社に居続けただけでは賃金はさほど伸びない。建築現場への技術者派遣夢真(ゆめしん)の”働き方”は変だ。少なくとも、旧来の考え方からすると?マークだらけなのだ。夢真は建設現場へ技術者を派遣する。技術者は夢真で働く間に技術を磨き、ゼネコンへスカウトされ、夢真を去っていく。夢真に何のメリットがあるのか。古い考えだけでは理解できないだろう。
慢性的な人手不足に悩んでいた佐藤社長が思い切って「出入り自由」を掲げたところ、有力大学の建築学科出身者が集まり出した。今年度は一挙に三百人強の技術者を採用する。育てはするが囲い込まない。そんな割り切りは経営効率の向上にもつながり、営業利益率は一五%と高い。建築学科の特性なのだろうか、さまざまなスタイルの現場で働きたいと思うのかも知れない。確かに、一口にゼネコンといっても得意分野があり、また自分の興味のある建築分野を担当できるとは限らない。それならば「出入り自由」で現場を選び、実力に磨きをかけたいと考えるものもいるだろう。
夢真の事例で思い出すのは「フジマキ弟、活躍の理由(わけ)」で書いた伊勢丹の人材流動性だ。伊勢丹を卒業したバイヤーたちが転職先で活躍すれば、転職先と伊勢丹との結びつきも強くなり、伊勢丹にもメリットがある。同じように夢真を卒業した技術者たちがゼネコンに入り、ゼネコンで手がけるプロジェクトに夢真の”後輩”を使う。みなに利益をもたらす人材の循環である。
仕事に救済を求められないニート (NEET) たち
「[さらりーまん生態学] 作家高任和夫氏――苦しい仕事が「救い」になる時」(2004/07/15, 日本経済新聞 夕刊)
ところで興味深かったのは、おふたりが立ち直ったのは仕事によってだったという事実だ。頼まれた仕事をこなしていくうちに、次第に回復していったというのである。やなせたかし氏、と倉嶋厚氏が伴侶を亡くされて、立ち直るきっかけが仕事であったという話である。
どうも仕事というものには、自分が感じているよりもはるかに大きな力、あえて言えば人を救済してくれる力があるようだ。どんなに苦しくても四の五の言わずに続けるしかないのだなと、腹をくくったのだった。
高尚なことは何も言えないが、いくばくかの「人を救済してくれる力」があることは違いない。
この記事を読んでいたので、7/16 日に紹介されていた「ニート―フリーターでもなく失業者でもなく (玄田有史、曲沼美恵著)」が目にとまった。ニート (NEET) は "Not in Education, Employment, or Training" の略でそのまま「教育を受けず、雇用されたことがなく、職業訓練も受けていない」者を指す。こうした者たちは、多くが社会に出てから一度も定職に就いたことがない。それどころか現在のペースで行くと、長い間「仕事に打ち込む」という経験なしに40歳、50歳になってしまうだろう。
仕事に救済を求められない者たちが増加することに、大きな懸念を感じる。
大きな商談が破談になった、そのときあなたは?
「三菱ふそうの大型車、ヤマト運輸、一転保有表明」(2004/07/16, 日経産業新聞)
ヤマトは横浜市で三菱ふそう車によるタイヤ脱落で母子三人が死傷した事故が起こった二〇〇二年以降、三菱ふそう車の購入をストップしており、現在も新規購入していない。ヤマト運輸の報告に誤りがあったことはここでは関係ない。
記事よると、ヤマト運輸は2002年から三菱ふそうトラック・バスの購入をストップしているという。三菱ふそうについては、一般的な感覚では推し量れない”異様さ”がつきまとうのだが、これは何にもまして異様だ。
業界最大手の大口顧客が自社製品の購入を見合わせるという。当時は問題の所在がわからなかった人身事故が原因だ。短期間の停止ではない。この事実に何の危機感も抱かなかったのだろうか。販売部門は理由を取材しなかったのか。技術部門に問いかけをしなかったのか。
自分の会社ではまさかこんなことは起こるまいと思う。しかし、商談が打ち切られる背景には”何か”がある。その何かを突き止めずに放っておいては次の商談もままならないだろう。
グレン・グールドの法則。四つの指導原理とは
「[Techno online] グールドの法則――技術は目的ではなく手段」(2004/07/13, 日経産業新聞)
最近、米国で出版された科学書を読んでいたら「グレン・グールドの法則」なる言葉にぶつかって驚いた。筆者は著名なコンピューター科学者であるデビッド・ゲランター・エール大教授。「技術はそれ自体が目的ではなく、道具にすぎない」ことをこの法則が象徴しているのだという。グールドの法則と聞いただけでは「パンダの親指」などの著書のあるスティーヴン・ジェイ・グールドが思い浮かべられるが、こちらは音楽家のグレン・グールドらしい。いろいろ調べたのだが、原著がわからない。デビッド・ゲランター (David Gelernter) の新刊は出ていないようにも見えるのだが、さても明記されていないのが残念だ。
記事によるとあと三つ、指導原理があるらしい。合わせて掲示しておく。
グレン・グールド (Glenn Gould) の法則
- 技術はそれ自体が目的ではなく、道具にすぎない。
- 技術革新のペースはハードウエアの進歩ではなくソフト技術により規定される。
- 「新しい技術」が社会に受容されるのではなく「優れた技術」が受け入れられる。
- 有形の価値は無形の価値に取って代わる。